文化資源戦略会議

ナショナルアーカイブの設立とデジタルアーカイブ振興法の制定をめざして

『アーカイブ立国宣言 日本の文化資源を活かすために必要なこと』刊行記念対談(吉見俊哉×福井健策)の内容を紹介します

   


2014年12月8日、池袋ジュンク堂で「『アーカイブ立国宣言 日本の文化資源を活かすために必要なこと』(ポット出版)刊行記念対談」が開催されました。本記事では、その一端を紹介します。

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まずは、福井弁護士、吉見先生がデジタルアーカイブに関わるようになったきっかけから。

両人は、演劇経験者という共通項があり、福井弁護士は30歳まで、吉見先生は学生時代に5~6年間の演劇活動をしていました。いまでも2ヶ月に1回程度、両人を含めた仲間内で観劇をしています。吉見先生は、新聞、脚本、ポスターなどの様々なアーカイブに関わる中で、横断的なアーカイブ政策の必要性を痛感したといいます。

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続いて、アーカイブにまつわる世界の現状が、議論の俎上にあがりました。

ITによって、情報の大量生産や大量複製が可能となった現代は、ヨハネス・グーテンベルクの活版印刷以来の大革命期です。

インターネットでは、全ての人間が発信者になり、情報がいつまでも蓄積され、過去を忘れることが技術的にできなくなりました。その蓄積されたものの中で、残すべきものをどのように残すのか。無限にある知識をいかに賢さにつなげるのかが、現に問われています。

デジタル情報の洪水は、留まるところを知りません。そして、膨大な知を、保存・整理して提供しようとする、GoogleやWikipediaの流れは押しとどめようがありません。

Googleの思想は素晴らしいのですが、一方で、知の序列化が一民間企業にゆだねられてしまうことも事実です。論文検索の上位は、多言語でなく、英語が占めています。多くのユーザの目に触れる大半が英語論文になることは、それを発表する英米の大学に知的権威が独占されることにつながってしまいます。

危機感を持ったヨーロッパ諸国、とりわけ仏独が対抗軸として用意したのが「Europeana」でした。Europeanaは、ヨーロッパの文化機関が提供する3,000万点超のデジタルコンテンツを擁する巨大サービスです。ただし、検索画面の使い勝手がよくないなど、まだ課題があります。

日本は、デジタルアーカイブに関する国家的中期計画が不在であり、ポータル検索すら少ないのです。政策を推し進めるうえで、法律的な裏付けも必要です。

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この現状に対する具体的な提言が「アーカイブ立国宣言」です。

提言1:国立デジタルアーカイブ・センター(NDAC)の設立

提言2:デジタルアーカイブを支える人材の育成

提言3:文化資源デジタルアーカイブのオープンデータ化

提言4:抜本的な孤児作品対策

提言2について、知のマネージャーであるライブラリアンやキュレーターが十分な報酬を得て、普通に生活ができる社会を作らなくてはなりません。

提言3と提言4について、著作権者が特定できず、権利処理できないコンテンツが多数存在します。例えば、クリエイティブコモンズのように、作品に著作者の意思表示を付与することで、権利処理コストを下げることができます。著作権の集中処理を行う仕組みも必須です。

利用促進ばかりでなく、権利者・コンテンツを生み出す側に誤解されない仕組みを構築する必要があるでしょう。文化の再利用のサイクルを生み出し、権利者にお金が回っていくシステムです。コンテンツ展開は様々な方法が想定され、ここまで無料/ここから有料という利用もありえます。市場性がないものでも、他の文脈においたり組み合わせたりすることで新しいコンテンツが生まれる可能性があります。

TPPなどで、著作権の保護期間の延長が取り挙げられていますが、知のインフラ構築という観点では、保護期間を延ばすことは良いことではありません。2014年3月に米国著作権局長が、一部著作権の短縮を議会に提案しました。保護期間を延ばしたら、孤児作品(権利者が不明である作品)が激増してしまったからです。

これらの提言を含めたデジタルアーカイブ基本法の必要性は、複数の国会議員向けの勉強会でも説明しており、かなり浸透してきています。

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このほか、トークセッションでは、文化の保存方法や東京五輪にも言及されました。

日本のデジタルアーカイブは、やっとスタートラインに立った状況で、様々な課題があります。

いかに文化を保存するのか、つまり文化をどう記述するのかは重要な課題です。舞台演劇や祭りといった無形文化財は、客席や慣習も含めてのコンテンツです。振付だけ残しても面白味が伝わりません。文化の本質をいかに多面的に残すかという問題です。震災アーカイブにおけるオーラルヒストリーや、ゲームにおけるゲーム動画の保存はそのヒントになるでしょう。

残すことに関心がない方、このトークセッションに来ていない方をどのように説得するのかも重要です。文化的価値、経済的価値など、複数の要素を説得材料にする必要があります。

2020年の東京五輪は、1964年と同じではいけません。

1964年の東京五輪は、前へ前へ、未来へ未来へと、速さを競いました。首都高速や新幹線がその象徴です。副都心と呼ばれる、新宿や渋谷、池袋が発展するきっかけになりました。

2020年は、別の価値の再発見が求められます。都心北東部(上野・本郷・湯島・神保町・秋葉原など)には、膨大な文化の蓄積があります。この蓄積、つまり日本の過去と向き合ったうえで、いかに未来へと歩を進めていくかが重要です。

日本に本物の石油はないかもしれませんが、膨大な文化資源が眠っています。それは、文化シェールガス、文化的石油のようなものだといえるでしょう。

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(文責: 井上奈智)

 

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